とりあえず流し聞きしていればOK?「多聴」のワナ


英語学習イメージ

こんにちは!教育家の石橋勇輝です。
今回の連載では、
・英語をゼロから学びなおしたい方
・お子様の英語力をアップさせたい方
に向けて、「絶対にやってはいけない英語学習法7選」と題してお送りします。
連載第一回のテーマは「多聴」。
英語の学習を始めるにあたって、
「とりあえず英語を流し聞きしていれば英語って上達するのかな?」
と思っていらっしゃる方も多いのではないかと思います。
しかし実際には、英語を聞き流しているだけでは、決して英語力は上達しません。
効果的に使いこなして初めて、「多聴」は英語力上達のためのパワフルなツールになります。
今回は「多聴」との正しい付き合い方を通した、英語の学習法のコツをお伝えします。

石橋勇輝のプロフィール:小4から公文で英語を始め、留学経験ゼロで中3で英検一級を取得後、TOEIC990点三年連続取得。iELTS 7.5、TOEFL iBT108点。また、家庭教師として数百人の小中学生を個別指導し、駒場東邦や開智をはじめ難関中学校に多数合格させ、英検準1級~5級まで合格に導いた経験を持つ。

「多聴」は成果につながりません

「このCDをとりあえず聞いていれば、英語がミルミルうちに上達しますよ」といった謳い文句は、巷の英語教材でよく見かけますよね。
それ以外にも、YouTubeの英語動画や、Netflixの英語の映画やドラマなどを長時間「浴びて」いれば英語が上達する、と思って習慣に取り入れようとする方もいらっしゃるかもしれません。
ところが実際には、多くの方が成果を実感できずに諦めてしまうケースが多いです。
これは単なる努力の問題ではなく、「多聴」という学習法そのものの中には根本的な問題点が潜んでいるといっていいでしょう。

「多聴」の科学的メカニズム

もちろん、「多聴」に科学的な根拠がないわけではありません。
それは、「英語の周波数と日本語の周波数は異なる」というものです。
それぞれの言語には、特有の「周波数」というものがあります。
英語の周波数が2000~12000Hzであるのに対し、日本語の周波数は125~1200Hz。
つまり、英語の方が日本語よりもはるかに高周波なのです。
日本語の周波数帯で生まれ育った私たち日本人は、2000Hz以上の音を聞いた時に、そのままでは「雑音」として処理してしまうため、聞き取りがうまくできません。
そのため、英語の周波数帯に耳を慣らすことによって、英語の聞き取りができるようになる、という主張はそれなりにもっともなものに聴こえるでしょう。

「多聴」の効果は幼児まで

しかしここで、もう一つの脳科学の知見があります。それは、人間の脳は幼少期を過ぎると変化が難しくなるということです。
例えば、音楽における「絶対音感」が身につけられるのは一般的に4歳9ヶ月までだと言われています。ある特定の周波数を敏感に聞き分ける能力は音楽的なセンスに近いため、実際にはこれは英語のリスニングについても言えるでしょう。
つまり、「多聴」が効果を発揮するのは幼児までで、大人の私たちが毎日英語を聞き流したとしても、英語をしゃべれるようにはならないということです。それは私たちがたとえ毎日バッハの音楽を聴いていたからと言って、ピアノが弾けるようにはならないのと同じです。

「リスニング」は、量より質

では、幼少期に「英語音感」を身につけられなかったら、希望はないのでしょうか?
決してそうではありません。
私自身、小学4年生から英語を学び始めましたが、ネイティブの方とコミュニケーションする際に全く苦労を感じないリスニング能力を手に入れることができました。そんな私がリスニングの際に意識していたのは、常に「量」より「質」を取るという姿勢です。
ここで、私がいつも生徒さんにお伝えしている、リスニング力の成長に関する「公式」をお伝えします。

リスニング力の成長=かけた時間 x 1秒あたりの集中力 x 模範となる音声のクオリティ

多聴トレーニングは、かけた時間にばかりフォーカスしているのですが、実際にはそれと同じくらい「1秒あたりの集中力」が重要です。
ここで「1秒」と言っているのは、聞きなれない言語の音声を聞き取るにはそのくらい徹底的な集中力が必要だからです。TOEICの本番でリスニング試験を受けている自分を想像してみてください。一言一句聞き漏らすまいと、手汗をかきながら鉛筆を握りしめる時のあの集中力。この「超集中」のリスニング状態を日常の中で取り入れれば取り入れるほど、リスニング力は成長していきます。
例えば、別の作業をしながら1時間英語のCDを聴くよりも、5分間「超集中」して英語のシャドーイングをしたほうがはるかにリスニング力が向上します。
あるいは、2時間の映画を英語音声で見るよりも、10分間で1分のスピーチを暗唱できるように「超集中」状態でオーバーラッピングの練習した方がはるかにリスニング力が向上します。
シャドーイングやオーバーラッピング、これらはどれも「アウトプット」の練習とくくられることが多いのですが、リスニング力はアウトプットを通して鍛えられます。なぜなら、自ら声に出す時、私たちは自分の声を自分の耳から聴いているのと同時に、骨伝導を通じて耳の奥でも聴いているからです。
また、ここでもう一点、「模範となる音声のクオリティ」の大切さも強調しておきます。映画や好きなYouTuberの動画などでリスニングの勉強をする場合、発話者の発音がどの程度クリーンな英語なのかどうかは、あらかじめチェックしてから活用した方がいいということです。
このアドバイスが特に効果的なのは、英語を学び始めたばかりの小学生や中学生です。現代はYouTubeやTiktokをはじめ、至る所にネイティブの英語音声が氾濫しているので、そうしたものを聴くことで英語のインプットをされている方も増えているでしょう。しかしそうしてしまうと、妙なインド訛りやオーストラリア訛りを身につけてしまう危険性があります。訛っている英語は独特な魅力があるため、正当とされる発音の基準を知らないままにそうしたものに慣れてしまうと、大変危険です。これからの時代は多様性の時代だとは言っても、イギリスのようにいまだに発音による階級区別が生き残っている国もありますから、「上流階級の発音」を身につけておいて損はないでしょう。

暗記するくらいまで聴くのが鉄則

また、リスニング教材については、書店に行けば膨大な量の教材が並んでいますし、YouTubeに行けば腐るほどコンテンツが手に入るような時代ではありますが、あえて一冊に絞って徹底的に繰り返すことがおすすめです。
なぜなら、その一冊の中に、あなたが聞き取るのを苦手とするような特定の発音が必ず隠れているはずだからです。1回流し聴きしたきりであれば、それが苦手な音であることにすら気づかないでしょう。人間の耳は、自分が聞き取れない音に対しては「雑音」として処理してしまうからです。
しかし、同じCDを何度も何度も繰り返し聴いているうちに、「あれ? ここ聞き取れてなかったけど、こんなことを言っていたのか」とわかるタイミングが必ずきます。その時に初めて、あなたの耳はまた一つ「新しい発音の聞き取り能力」をゲットしたことになるのです。

結論として、「多聴」だけでは決して英語は上達しません。
「集中力」に裏付けられた「リスニングの質」を高めることを意識しながら、絞り込んだ一冊に徹底的に取り組むことが、リスニング力上達の近道です。

いかがでしたでしょうか。次回の連載では、「語学アプリ」のワナについて解説していきます。お楽しみに!